霧が濃かった朝の日に。


おはよう、皆の衆。定次さんです。
大寒の季節になりました。
この時期は文字通り一年で最も寒い時期――、電源の点いた冷凍庫の中に注いだコップ一杯の水も37時間後には間違いなくカチコチに凍ってしまうほど寒い時期になりました。
大雪の季節になりました。
この時期は寒いだけならず、まとまって雪が降り積もる時期――、今年の降雪はまだまだ大雪を実感するほどでもない気もするのですが、あまり悠長なことを言うと大雪で困っている地域の方からお叱りのDMを送られそうな気がするので、建前上は『大変な季節だなぁ』とフカしておくこととします。
大変なことになりました。
朝起きたら窓の外が真っ白。いくら大雪の季節だからと言っても、こんな湿気を感じるホワイトアウトは体験したことがありません。
大雪が降れば基本的には空気は乾燥するもの。湿気った空気を感じる時点でこれは大雪ではないと理解をするのに時間は要しませんでした。
――これは霧。それも近年稀に見るほどの濃霧。
窓の向こうを覗くと30m先くらいには向かいのアパートが立っているのが見えるのですが、それが霞んでしまうほど。
アパートの傍らにはヘッドライトを照らしてゆっくりと進む自動車の姿が見え、また一方では薄っすらと赤いテールランプが続いているのが見えました。
朝方の明るい日差しに照らされて異様に眩しい白い世界。
異質な光景に眉をひそめる私でしたが、内心は非日常感を醸し出す雰囲気に呑み込まれ、すぐにでもこの白い世界に駆け出してしまいたいと高ぶった気持ちを抑えるのに必死でした。
我が家から職場は近い。
車を走らせればあっという間に着くので、暖かな時期は自転車で通勤するのも悪くありません。
何なら歩きで通ってもいい。どうせ5分が10分になる程度と、かかる時間は大したものではありません。歩くことは健康的にも良いですし、もしかしたら道中で面白い発見をするかもしれません。
――それでも最近はすっかり自動車通勤に甘えるようになりました。
この時期自転車は仕方がないにせよ、徒歩で通勤する機会がめっきり減ってしまったのは怠惰以外の何物でもないでしょう。
道路に雪が沢山積もっていたり、路面が凍結してしまっているなんてことがあったなら――と、万が一の交通事故を危惧して徒歩で出かけるべきだと毎朝思うばかりですが、どういうわけか今年の冬は雪が少なく気温も高い。
ああだこうだと言い訳を連ねている内に徒歩で間に合う時間をゆうに過ぎ、いつも私は余裕のない時間の中で車を走らせてしまうのです。
しかし今朝の場合は状況が違う。
私の足を小走りに変えて外へと駆け出させるほどの理由が外で起きていたのです。
余裕を持って出かけた先の世界は先ほど窓から見た景色と変わりなく、遠くに行くほど視線が霞む真っ白な霧の世界でした。
昨晩に降った季節外れの雨と、妙に高い気温が原因なのか妙にむわっとした空気が肌に張り付きます。
この冬の時期なので決して蒸し暑いということはないのですが、肌に霜が張るようないつもの空気と違う異質さが季節を感じさせず、そして何より気持ちをより高ぶらせてくれたのです。
明け方だからと近所の居酒屋は店を閉めていました。
遠くにはぼやっとガソリンスタンドの影が見えています。
ここは試される大地北海道――、しかし今日だけ見れば静岡ではないだろうか……。
そんなしょうもないことを考えてクスクスと笑いつつ、人気の少ない路地を通って職場方面へと向かいました。
交通量の少ない道に入ったことで尚更ディストピア要素が増えました。
普段は然程気にもとめない街路樹も鬱蒼と生えた不気味な影にしか見えず、なんてことない広場のフェンスに巻き付くツタも時間だけが進んだ世界を想起させます。
突き当たりで浮かんできた大きな影――いつも見かける寂れた団地の佇まい。いつも見かけているというのに、今日だけ特別異様さを見せつけます。
ゲームの重要場面が展開するムービー演出のような、自分の視界がゲームの画面と重なった瞬間を覚え、恥ずかしながら私は現実の世界の中で軽い身震いをしたのでした。
状況が状況ならこの後この団地の中に入るのだろうな――とじっくりと眺めながら通り過ぎて行く。
ゲームのような非現実的な光景はあっという間に過ぎ去って、自動車が沢山通る道へと戻ってしまいました。
もうこの先から非現実感のある世界に戻ることはできません。
裏の世界――と言うには程遠いですが、現実と非現実の境界を歩いた気がした一日を過ごし、私は満面の笑みで職場へと歩みを踏み出したのでした。

で、これ何の話?

えー、先日霧がひどかったのでサイレントヒルごっこがしたくなったそうで。

ゲーム実況でプレイ動画を見た程度しか知識がないくせに生意気ですよね。

だってゲーム機はSwitchしか持ってないし……。
