ちょっとしたダイアリー『ジャグジーで 自分のおならを 見つけたい』


おはよう、皆の衆。定次さんです。
日頃から銭湯に通うことを趣味の一つとしている私ですが、時には少しばかり高いお金を出してワンランク上の温泉に足を運ぶこともあったりします。
お湯に浸かることが目的――ということであれば、コストが安く済むことに越したことはないのですが、やはりそれなりの対価を払ってそれなりに整った設備の中でのびのびと過ごすのもなかなかどうして気持ちが良いものでして。
そもそものところ、毎回同じ環境で、同じように湯に浸かってばかりではマンネリも進行してしまいます。
高い金額を払えば自ずと充足感も湧いてきますし、新しい発見も見つかります。
日常を切り抜いて文章にしたためるような――こういった私のような人間にとって、日常下で見かける新たな発見というのは非常に嬉しいものでして、その発見の形が一体どんなものであったとしても、そんな楽しみがまた湯船に浸かろうというモチベーションに繋がるわけです。
――して、先日私はそんなワンランク上の温泉へと行ってきました。
その温泉に足を運ぶのは今回が初めてというわけではなかったのですが、やはりこなれてくると一人で物思いに耽けながら湯船に浸かっていると自然と周りから面白そうな会話が耳に入ってきたり、温泉の楽しみ方を試行したりしてしまいます。
例えば――今回の話で言えば、露天風呂に浸かっている最中に聞こえてきた若い男性グループの会話だとか。
その内容はそのグループに属する、俗に言うイジられキャラといった立場の男性が自身の癖っ毛について吐露していたというものだったのですが、他の2人はその話に対して髪を梳いて毛量を減らしたりだとか、理髪店での注文の仕方などのアドバイスをしていました。
ただ、その癖っ毛の男性はどこかしらに捻じ曲げたくない持論があったのか、友人たちの言葉に返すように都度、折衷案を被せていたのが気になりまして。
それは髪全体を梳くべきだというアドバイスに対し、「両サイドを梳くことで理想の髪型になるのではないか?」という買い言葉だったのですが、友人はそれを聞いて即座に「そんなことをするから前みたいに玉ネギみたいになる」と説き伏せていました。
彼はなるほどと頷いた様子でワハハと笑っていたのですが、立て続けにもう一人の友人が次に散髪をする際にどう注文するべきかといった提案をしていました。
話をする友人たちの様子を横目で見ていたのですが、本人たちもベストなアドバイスを与えていた手応えがあったのか、解決に向けた糸口を掴めたといった強い雰囲気を醸し出しているのが感じ取れました。
それはマウントだとか、強制だと言った物々しい雰囲気ではなく、友人という立場としてのやり遂げた感。
私はその瞬間に彼ら3人の仲の良さをまじまじと実感したのでした。
しかし、癖っ毛の彼はどういうわけか唐突に1000円カットのお店について語りだし、「良いお店を知ってる」と豪語を始めてしまいました。
彼は「腕の立つ人がいるんだよ」と笑いながら語るのですが、友人たちを見ると呆れてしまっている様子。
1000円カットのお店と言えど確かにピンキリあるとは思われますが、散髪に支払う対価とはそれ相応のもの。
ここまで自身の悩みについて話を持ち上げられているのであれば、せめてもう少し自分の中の世界を押し広げてみてはどうか――と、そんなんだから一向に玉ネギから進歩しないんだよという空気を寒空の下で感じながら、私は露天を後にしたのでした。
料金が高い温泉というのはその分サービスも充実。
それは施設全体の綺麗さや大きさのみならず、アメニティーや顧客を取り込むためのイベントなどと様々。
何より浴槽の種類が豊富なのが嬉しいところです。
今回私は温泉施設を利用したということで名物の温泉に長いこと浸かっていたのですが――やはり長々と浸かっていると別の浴槽も使用したくなるもので、一通り温まったところで浴場中央に位置する噴流式泡風呂……俗に言うジャグジーを利用することとしました。
ジャグジーは丸型形状をした浴槽で割と広々とした造りになっており、名物の温泉こそ流入されてはいないものの、入浴剤が入れられているために鮮やかな湯が溜まっています。
他の浴槽と比較しても若干温度は低めで、長く浸かっても簡単にのぼせるほどでもないようなお風呂です。
そしてそんなゆったりできる浴槽で、私は常時底からボコボコと浮き上がる泡をボーッと見つめながら浸かっていました。
平日ということもあってか利用客は少なく、ジャグジーも私一人。
広々とした丸型空間にただただボーッと浸かっていたのですが、湯船の温度が思った以上に低かったのか、将又、昼頃に食べたものが悪かったのか……やがてお腹の調子が悪くなっていくのが感じられ、ボコボコと湧き出る音の中で私の腹はグルグルと音を立て始めました。
次第に下り始める便意……徐々に張っていく下腹部に痛覚を覚え、頭の中で黄色シグナルが点灯します。
ですが、折角独占できた人気のジャグジー風呂。もう少し長く浸かっていたいというジレンマに苛まれて、私はもう少しだけ腹痛を我慢することとしました。
実際問題、全裸で、ずぶ濡れの状態で脱衣所のトイレは使いたくありません。
そもそものところ、この感覚自体が"実"ではないことが経験則から確信できていました。
誰しもが使う浴槽の中、糞便でも漏らそうものならそれは人として恥じるべきですが、私はガスであることを確信した上でガス抜きをしつつ、ここでジャグジーの泡よりも自身の放屁が主張できるものか試みることとしたのでした。
今回のような下腹部の膨張感を覚えた時、いざ放り出そうとしても感覚に反して思ったよりもガスが出ないのは何故でしょうか。
私はガスであることを確信した上で思い切り力んだのですが、どういうわけか細かなガスしか漏れ出しません。
故に浮かび上がる気泡は全てジャグジーから湧き出す泡にかき消され、観測することが叶いませんでした。
――尚も膨張感が治まらない腹部。
人がいないことをいいことにブリブリと力むものですが、結果、何一つとして自身から生み出した泡を見つけることができずに浴槽から上がることとなったのでした。
人体というものは何かと不思議なもので、脱衣所に出た頃にはあれだけ張っていたお腹もピタリと治まり、トイレに駆け込もうという気持ちも文字通り消化不良で終わってしまいました。
今回の行為についてきっとマナー違反であると不快感を示した方も多いと思います。
しかしながら私自身、興味を持ってしまった以上は確かめざるを得ませんでした。
ジャグジーの泡に打ち勝つ自身のおならを見てみたかった――ただそれは叶わなかったのです。
皆さんも銭湯や温泉に入った時はぜひ試してみてください。
私以上の放屁をすることで、皆さんのおならの存在意義を見出してみてください。
作詞:定次さん
おおブリネリ おなかの調子はどう?
私のおなかは すぐ冷えるのよ
いつもどこかで 垂れ流してるのよ

ヤーッ!!

ホーッ!!
