【未来キャンプ】
おはよう、皆の衆。定次さんです。
恥ずかしながら私という人間は、これまで生きてきた中でキャンプというものをあまり経験したことがありません。
元々インドア派と言いますか、部屋の中で娯楽が済むのであれば――という気質の人間ですので、自ずからキャンプというアウトドアに参加するようなことがないまま今までを生きてきました。
これまでの経験を強いて挙げるのであれば――、子供の頃に自治体で行われた"子ども会"でのキャンプでしょうか。
その地区に住む小学生から中学生までの集まりで行われる、年に一度のキャンプイベント。
自然に触れるアクティビティということに変わりはないですが、テントを張ったりだとか、バーベキューをしたりといったことまではせず、ご立派なバンガローに班ごとに分かれて宿泊するだけというものでした。
水辺で行われた魚のつかみ取り、森の中の探検、開放感のあるキッチンでの調理、夜になったら花火や肝試し、各々で用意したカップラーメンを夜食に食べるといった普段では体験できないようなアクティビティの数々……子供ながらにとても楽しいイベントでした。
そんな体験しかしたことがない私ですが、本日満を持してキャンプに行くこととなりました。
現在時刻は朝の8時――雨天中止という話でしたが、天気も快晴。6時間後にはキャンプ場で設営の準備をし始めている頃でしょう。
初めて行うテントの設営……どこから何を用意すれば良いのかわからず、あたふたとしてばかりで何も役に立っていない未来像が目に見えます。
元々私はチームワークには向かない人間。
手伝う雰囲気だけ醸し出して、実際はあまり手伝いをしないような人間です。
わかりやすく例えれば、テントに打ち込むペグだけ手に持って右往左往ばかりして"頑張っている風"を演じているような感じ。
本人からしたら上手くごまかせていると思い込んでいるのですが、周りからしたら明らかに無能ムーブとわかるもので、その場では雰囲気で許されそうですが、後から陰口を叩かれて二度と誘われないような――そんな行動を起こしていそうだと我ながら考えております。
そんなことにならないように前もって戒めるわけですが、実際問題どんな流れでキャンプが進んでいくものか見ものだと思います。
夏休みの時期ということもあってキャンプ場は非常に混み合っています。
辺りを見回せば、テントを張るがために自分たちのスペースを確保しようと領地の奪い合いが行われている様子。
到着して早々、争奪戦に負けた者たちが追いやられ、獄門にされている光景が目に飛び込んできました。
若干血生臭さが漂うキャンプ場ですが、飛び交う怒号と矢の雨をくぐり抜けながら自分たちが設営する区画へと進んでいきます。
4,5kmほど歩いたところでいよいよ自分たちに与えられた領地が見えてきたのですが、遠目から既に何者かが火を焚いて拠点にしているのが見えました。
地元の山賊でしょうか。3人ほどの薄汚い男が焚き火を囲んで談笑しています。
我々は平和的に交渉しようと声をかけるのですが、聞く耳を持たれずにすぐさま腰に挿していた刀を抜く仕草が見えたので、やむなく携帯していた拳銃を発砲しました。
3発撃ったうち2発が命中。勝てないと悟った残りの1人は倒れた仲間を引き摺って逃げていきました。
山賊の焚き火を蹴散らし、その上に旗を立てていよいよキャンプ開始です。
初っ端からトラブルが続きましたが、誰一人として欠けることなく始められたのは非常に大きい。
時折遠くの方から人ならざるものの叫び声が聞こえてきますが、そんなものを気にしていたらキャンプはエンジョイできません。
早々にテントの設営を終えて一休み――としたいところですが、まずは腹ごしらえが大事です。
誰一人として昼食を食べてきていないのでみんな腹ペコ。誰から鳴り始めたのか、「ぐー」という腹の音を聞いて慌ててバーベキューの準備を始めます。
キャンプと言えばバーベキュー。
私は炭火を起こす役回りを任されることとなりました。
領地を奪った証とは言え、山賊の焚き火を蹴散らしたことに口惜しさを覚えますが、今となっては仕方のない話。
いつの日かディスカバリーチャンネルで見た火起こしの仕方を参考に、周りに自生する白樺の皮を剥がします。
樺の皮は樹脂を多く含むため燃えやすく、消えにくいそうです。
他の人が狩猟に出かけている間に火を起こさなければならない……プレッシャーを感じつつ、私は必死でファイヤースターターを擦り続けました。
――気が付くと私は病院のベッドで寝ていました。
朦朧とする頭を持ち上げ、辺りを見回そうとした瞬間、ズキッと頭が痛みました。
思わぬ鈍痛に反射的に顔をしかめる私。
ふと頭を触ると包帯が巻かれていることに気付きました。
両腕には点滴が繋がれ、様々な傷の処置が施されています。
「裏切り者がいたんだよ」
目を覚ました私に友人が苦悶の表情を浮かべて呟きました。
我々は裏切られ、そしてキャンプ地を奪われた。敗北したことを告げられました。
途中で1人増えていることに気が付かなかったのが最もな原因。奇跡的にも全員命からがら逃げ切ることができましたが、その代償はとても大きかったものだと聞かされました。
時は流れて日曜日の夕方16時。
病院のベッドを出ると玄関ではキャンプメンバーのみんなが待っていました。
私の元気そうな姿を見て安堵を漏らしていましたが、その表情にはどこか悔しさが見て取れました。
いつかリベンジして領地を奪い返そう……折れた旗を繋ぎ止め、次回への望みを大きく掲げたのでした。