ちょっとしたダイアリー『夕飯までの道のりは遠い』


おはよう、皆の衆。定次さんです。
いつの日かの食事中、ふとした拍子に思い切り噛んでしまった下唇。
食事の咀嚼中に噛み潰してしまったものですから、当時口の中は血だらけ。
皮もベロベロにめくれ上がり、今ではすっかりクレーターのような形をした大きな口内炎になってしまいました。
辛いものや酸っぱいもの、熱いものといった刺激の強いものを口に含むと傷口にしみてとても痛い。
ろくに食事にもありつけないまま今までの時間を過ごしております、今回の記事でございます。
さて、早速の自分語りにて失礼しますが、私の住まいはそれなりに恵まれた立地にあると自負しています。
近所にドラッグストアやコンビニはもちろん。居酒屋を含んだ飲食店も立ち並び、10km圏内を車で走れば未だに巡り合ったことのない未知のお店に出会うことも可能です。
10km圏内のくだりを含めると、流石に大抵の地域でもあり得るような立地だとその条件の緩さに言及されてしまいそうですが、実際問題、徒歩圏内で十二分に満足できるくらいの生活ができる立地にあることは自慢であると言えるでしょう。
そしてそんな私は、日頃から億劫を働かせながら生きているので大抵の時を徒歩圏内で完了させてしまいます。
無論、徒歩圏内だけで事足りなくなってしまった場合には自転車ないし、自動車で移動を行うわけですが、今宵の私は歩いていける範囲だけで平日の夕食ないし、買い物を済ませてやろうと決めていたのでした。
仕事を終えて帰宅をし、いつもの通り軽い運動を行います。
冷房の効いた涼しい部屋の中、ダラダラとかいてしまった汗を流してスッキリさせるべくシャワーを浴びたわけでしたが、この後にわざわざ冷蔵庫を開いて台所の前に立つのは非常に億劫。
蒸した熱気が空気に淀む夕方の時間帯――私はこんな時にお酒でも飲めたらさぞかし美味しいだろうなと思い、歩いていける距離にある居酒屋へと財布片手に家から飛び出したのでした。
平日の夕方。時間帯もまだまだ早い。
誰かしらから飲みの誘いでもない限りあまりお酒を飲まない私ですが、この日は不思議とお店でお酒が飲みたい気分になりました。
家飲みなんて一切しない。お金がかかるからと一人飲みも滅多にしない。
その居酒屋に行くのも相当なご無沙汰で、たまに顔を出しておかなければ折角キープしているボトルも廃棄されてしまう。
――そんな考えも持ちつつ、私は意気揚々と入口の扉を開けたのでした。
火曜日という平日の夕方。
週の半ばに差し掛かろうというタイミングは基本的に飲食店は空いているのがベターです。
しかしながら実際にお店の中は殆どの席が埋まっており、カウンターは常連客でいっぱい。テーブル席も座れる状態ではありませんでした。
一応4人席の小上がりが空いていると言われるも、これから益々客の入りが増えると考えられる中、私一人が小上がりを占領するのは非常にやるせない。意気揚々とお店に入ったのは良いものの、その雰囲気に押し流された挙げ句、どこか申し訳なくなって思わずお店を後にしてしまったのでした。
最近はあまり客の入りが多くなかったように思えた居酒屋。
最近まですっかりご無沙汰だった私が言える話ではないですが、平日の夕方だったら容易に入れるだろうという先入観に囚われた結果、有無も言わずに店を出る羽目になるとは到底思っても見ませんでした。
図太い人であれば小上がりにのさばることくらいはできたでしょう。
しかし私は周りの目を気にして動いてしまう繊細な人間。そして一人飲みならカウンターでと考えていた節もありました。
まさかここまで混んでいるとは――虚を突かれてしまった私はそのまま家の駐車場まで戻るやいなや、車の前に立ち竦みます。
眉間にしわを寄せて、顎に拳を添え、まるで不審者かのような佇まいで私はこの後に続く晩飯の行方を考え始めたのでした。
釈然としない気持ちはどうせ機を改めてから居酒屋に行くことで解消させることでしょう。
だからといって今日はこのまますごすごと家に帰って食卓を並べるのは非常に面倒くさい。
今日を外食で済ませるのであれば、なるべくコストを抑えるために安いお店で済ませたい。
だったらラーメンといったちょっとこってりしたものを食べてはどうだろうか――そうだ、ラーメンと唐揚げと食べて食欲から湧き立つフラストレーションを吹き飛ばしてしまおう。
しかしこのクレーターのように大きく開いた口内炎はそんなジャンクを受け止めきれるのだろうか。
どうせ食べるならさっぱり冷たいものを食べたい――で、あれば寿司を軽く流す程度に食べてはいかがだろう。
少し高くつくかもしれないが、寿司くらいでなければこの思いは抑えきれない。
そうだ、これから寿司を食べに行こう――。
釈然としない気持ちを片隅に置きながら、今夜の食事を考えます。
おおよそ5分程度の時間が経過したでしょうか。
想定外に運ばれてしまった食事事情に少し苛立ちこそ覚えたものの、急に決まった路線変更に頷いた私はすぐに車を出して、近くにある回転寿司へと食べに出かけたのでした。
日も沈みきっていない火曜日の夕方。
居酒屋こそ混み合っていて入れませんでしたが、安定してカウンター席が座れるお店であればこの食欲をノンストップで受け止められるはず――、そんな考えのまま車を走らせること1,2分。間もなくお店の駐車場が見えてきました。
「嘘だろ?」
ハンドルを握りながら思わず声に出してしまった駐車場の混雑模様。
いつもよりも多く駐まっている車の数に、私はハンドルを曲げることを躊躇をしてしまいました。
――しかし実際駐車場に入ってみたらそこまででもない。
見てくれこそ多く車が止まっているように見えましたが、実際には車が固まって駐まっているだけであって、その実態は大したことがないように見えました。
いつもなら店の前の駐車スペース駐めるところ、やむなく端っこに車を寄せて入店――しかしどういうわけか絶妙に混んでいます。
多少ばかりの待ち時間があっても仕方がないとは思ったのですが、待ち組6組という何とも言えない人数が長椅子に座って待っていたのでした。
しかし私は1人でカウンター席希望。
テーブル席をご所望の他の客をゴボウ抜きにして早々に座れる自信がありました。
空いた長椅子にどっかりと座り、暫くの間呼ばれるのを待ったのでした。
次々と呼ばれていく先客達。
呼ばれる番号が近くなり、いよいよ私の順番です。
――しかしどういうわけかその後すっかり呼ばれなくなり、随分と待ちました。
こちとら1人なんです。カウンター席の端っこに座るだけで大丈夫なんです――。目をパチクリとさせながらひたすらに無の時間を過ごしていたのですが――ここで私は何を思ったのか、これ以上待つという行為が嫌になり、諦めることとしたのでした。
時間が経過するにつれて段々と失せていく寿司への欲求。
最初は寿司を食べるという結論に納得こそしましたが、最終的には予算を考えながら食べる寿司に満たされることがあるのか?という疑問を覚え、結果、私はそのままスタッフに番号用紙を返却してお店を後にしたのでした。
果たしてこの選択は正しかったのでしょうか。
あのまま待っていれば間もなくして寿司が食べられたでしょう。
しかしそれで私自身が満足できたのかどうか――と考えると甚だ疑問です。
気まぐれに断って店を出たのはいいものの、この後この気持ちを収めるには一体何を食せばいいのか……。
とりあえず私はいつまでも寿司屋の駐車場に車をのさばらせておくこともないだろうと思い、気まぐれに車を走らせたのでした。
――暫くして見えてきたのはすき家。
何かもうどうでも良くなってきた私は、そのまま今日は牛丼でいいだろうと思い、やるせない気持ちのまま駐車場に車を駐めました。
すっかり日も暮れて、店内の明かりがとても眩しい。
例の事件も既に風化しつつあるのか、それとも私のような漂流者が多いのか――若干の混雑と窮屈な駐車スペースに少し不満を覚えながら私はようやく食事にありつけたのでした。
ここまで散々たらいを回し続けた私。その結果一層湧き上がった空腹を満たすメニューとは何か――。
私は目についた山かけ牛丼をメガサイズで注文し、併せてトッピングに山かけを追加しました。
満たされなかった唐揚げ欲を満たすべく、更に唐揚げを追加注文して待つこと数分……カウンター席に置かれたメガ山かけ牛丼は私のフラストレーションを発散するには十分なボリュームがありました。
山かけの上に更に追い山かけ。
一見多いかなとは思ったのですが、元々の量が大したことなく、重ねて盛り付けてようやくイーブンといったところ。
くたびれたおっさんたちが黙々と食を進める中、私もまたストレスを発散するかのように牛丼と唐揚げにがっついて食べたのでした。





















【定次さん】





