コンニャクマン、渋谷を発つ
ゴミ箱を開けた際、中に詰まっていたゴミが勢いよく飛び出し、私の懐へと飛び込んできた時は思わず父性が出てしまいました。
「パパー!!」と言わんばかりに飛び込んでくるプラスチック容器。ゴミとは言ったものですが、きっと心が通っていたならば無機物でも愛することはできるでしょう。
そんな明日は燃えないゴミの日です。父性とともに馴れ馴れしいゴミはあるべき場所へと捨てましょう。
そしてそんなゴミと一緒に羞恥心も捨てたいものです。
「大きなメンチカツをください」
レジを売っている最中の店員さんにホットスナックを要求する私がそこにいました。
仕事帰り、空いている小腹を満たそうと何の気なく食べようと思った矢先でその商品を見つけ、大きなメンチカツを食べる気分が私の中で完全にできあがっていました。
「大きなメンチカツをください」
コロナ対策のシートにはばかられて聞こえなかったのか、首を傾げる店員さんに今一度私は声のボリュームを上げて注文をしました。
尚も首を傾げ、ホットスナックのケースまで向かう店員さん。
何だこいつは。うだつが上がらないやつだな。
入ったばかりで商品の一もわからないのか、ケースを開けて内側から覗き込んでも尚も首を傾げる店員さん。
仕方なく直接外側からこれだと指をさして教えてあげようと、手伝ってあげようと出向きました。
しかしそこには大きなメンチカツという商品はありませんでした。
売り切れていた商品を勝手にあると思い込んでいたわけでもなく、ありもしない商品を勝手に注文したわけでもない。他の商品の会計中に別のレジで売れてしまったわけでもなく、私が見たショーケースにはただ"大きなチキンカツ"という商品が置かれているだけでした。
「…大きなチキンカツのことです」
細々とした声に察する店員さんはぎこちない笑顔で望んでもいないチキンカツを手にとってくれました。
違う。今の私はチキンカツの気分なんかではないのだ。油ぎった雑味の多い大きなメンチカツを頬張って空腹を満たしたいのだ。言え、私よ。チキンカツを食べたいわけではないからいらないと断るのだ。
「えぇ、それで構わないです」
後に引けない私はもう断る勇気もありませんでした。何しろ私はその場所にあった商品を注文したわけですから。メンチカツと見間違えて注文したわけではない。その場を取り繕ってごまかすにはチキンカツをメンチカツと読み間違えて注文してしまったという他ありませんでした。
そして渡されるずっしりと重いチキンカツ。
ぎこちない笑顔で「どうも」と返し、私は逃げるように店を後にしました。
私はメンチカツが食べたかった。私はメンチカツが食べたかった。私はメンチカツが食べたかったのだ。
車内で開いた包装紙の中に入っているものは紛れもなくチキンカツ。メンチカツだと言い張れば見た目にそこまで違いはないかもしれません。しかし私が握っているそれは紛れもなくチキンカツ。望んで生まれてきたわけでもない悪魔の子。
ですが、買い取った以上食べる責任が私にはあります。
勢い良く頬張る私。思った以上に美味しく満足する私。買って良かったチキンカツ。
そうです。私は元々チキンカツが食べたかった。チキンカツをメンチカツと読み間違えて注文してしまっただけのおっちょこちょいなドジっ子なのです。