そのイカ、そのままの姿につき
おはよう、皆の衆。定次さんです。
突飛なお話で大変申し訳ないのですが、私という人間はどうにもこうにもイカという食べ物が好きでして。
他にも好きな食べ物はたくさんあるのですが、時折どうしてもイカが食べたくて仕方がない時がある人間なのです。
つい今しがたもスーパーで購入したイカ刺しを食べながら過ごしていたわけですが、完食してしまった今となってもまだ食べたりないと思えてしまうほどイカを食べるのが好きで仕方がない人間なのでございます。
今回食べたものはイカ刺しでしたが、イカを食べられるのであればどんな料理であっても美味しく食べる自信がございます。
天ぷらに煮物、フライに乾物……どんな形であっても構いません。
その中でも特に刺し身で食べることを好き好んでいるわけですが、今この時点で改めてイカを食べる機会が与えられるのであれば嬉々として飛びつくでしょう。
このイカを欲する気持ちを先程はイカ刺しを食べて満たそうとしましたが、実を言えば今回食べたイカ刺し……普通のものではございません。
すでに細切りに捌いてあるものではなく、イカの胴体そのものでございます。
手持ちなく、羨ましそうに鮮魚コーナーのショーケースによく張り付いている皆さんならご存知かと思われますが、今回私が食べたものは板状に切り開いた形のまっ白に透き通ったイカの胴体――それに醤油をかけてかぶりついているのでございます。
俗に言う『冊食い』。お刺身用に捌く以前の状態を見窄らしいくらいにかぶりついて味わう『冊食い』を実行したわけです。
元々スーパーに行った理由は適当にお菓子を買いに行くという話からでした。
しかし実際問題その時の私が食べたかったものはスナック菓子でもチョコレートでもなく、イカの刺身。
どうせお菓子として楽しむのであればこっちの方が良いやという理由から手を出したわけでございます。
そして実際に間食として楽しんだわけでして。
パックに入った状態のものに乱暴に出汁醤油をかけ、諸手で掴んでかぶりつき、噛み千切れるまで咀嚼する……傍から見たらドン引きされてしまいそうなほど何とも行儀の悪い食べ方ですが、人間も野生に帰ればテーブルマナーもクソもありません。
野生に生きる人間でイカの刺身をナイフとフォークで食べている人を私は見たことがありません。
テーブルマナーを気にして悠長にイカ刺しでも食べようものならば、いつどこで他の野生動物に襲われるかもわかりません。
ナイフとフォークは食べるために使うものではなく、イカ刺しを他の動物から守るためのツール。私はそうして生きてきたと――そんな妄想を即興で文章にしたためているのでございます。
話は変わりますが、本日私は歯医者さんへと行ってきました。
以前より何度も通っている近所の歯医者さんですが、何やら今回は前歯にできた虫歯を治療するとのこと。
奥歯に虫歯ができるならともかく、前歯が虫歯に侵されるというのは今ひとつイメージが湧きません。
一つ心当たりがあるのであれば、昔自転車で転んだ際に諸々の前歯を折ってしまい、その幹部を応急処置として治療した過去があったくらいでしょうか。
実際に先生も「接合部分からう蝕しています」と言っていたので恐らくそれが原因だったのでしょう。直ちに治療をお願いし、前歯の何本かがまるでホワイトニングしたかのように綺麗な歯へと修復されました。
虫歯の治療というものは削ってなんぼです。
全く軽度の虫歯ならともかく、ある程度う蝕が進行してしまった歯を治療する場合に関しては削るという道を避けて通ることはありません。今回の私の前歯も同様に削る他にありませんでした。
補修こそされているものの、一時的には削って薄くなっている前歯。下手に力を加えてしまえばまた折れてしまう可能性も否めません。
そんな経緯があった後で私は我慢に耐えられず、今回のようにイカ刺しの冊食いに踏み切ったわけでしたが、この姿を治療を施した歯医者さんが見たらどう思うでしょうか?
恐らくきっとドン引きするでしょう。「イカ刺しをそんなふうに食べるんだ」と不快感を抱くはずです。
そして私はムチャムチャと咀嚼しながら治療したばかりの前歯にダメージを与え続け、いよいよへし折ってしまう――……ということはなく、何事もなく食べきったわけでしたが、下手をすれば再び歯をへし折りかねない……そんな姿勢でイカ刺しを食べたのでした。
しかしイカ刺しを食べきったところで一つ思うことがありまして――。
生の魚介を食べるにあたり、冊の状態で食べるのはやはりあまり本来の大きさの切り身で食べるよりも味が落ちるものだなと。
結局刺身というものは適度の大きさに切ってあることで美味しくいただけるものだと再認識させられました。
過去に私は『冊食い』を何度も実行しているのですが、毎度毎度同じ後悔をしております。
丸ごと食べるのはロマンだと言い張りながら、結局食べきる頃には切り身で食べた方が美味しいと――いつもそう後悔しつつ、またロマンを求めて過ちを繰り返しているのです。
何度も行うということは言葉で言い表すことができない何かを満たすことができているのでしょう。
それが何なのかはわかりませんが、きっと今後も私は後悔の念を抱きながら様々な冊食いを実行するはずです。
イカも良いですが、タコ足の丸かじりもいつかやりたいものですね。
それこそ歯が持っていかれますよ。
イカんのか?
イカん。
・・・。
・・・。
・・・おタコがよろしいようで。
ちょっと無理やりすぎでは?
うーん、ゲッソリ。