辛いシシトウと辛くないシシトウの調べ方
おはよう、皆の衆。定次さんです。
皆さん、シシトウはお好きですか?
私はどちらかと言うと甘長唐辛子のほうが好きです。
さらに言えば甘長よりもパプリカの方が好き。
パプリカと比べるのであれば新鮮な具材が沢山盛り付けられた海鮮丼の方がもっと好きでしょうか。
しかしながら私の好物はハッシュドビーフなので、海鮮丼とどちらを食べるかと聞かれたらやはりハッシュドビーフを選ぶのではないかと思われます。
そんなハッシュドビーフが好きな私ですが、嘗て別の世界線で悪の組織に人質として監禁されていた際にこんなことを聞かれました。
「今日の夕飯の献立をハッシュドビーフとシシトウの炒めもののどちらかから選べ」
「ただし、ハッシュドビーフを選んだ場合は当面の間解放するつもりはない。シシトウの炒めものなら食べ終わった後にでも家に帰るといい」
正直なところ、監禁されている間の待遇は然程悪くなく、何なら居心地の良さすら感じていました。
どうせなら夕飯の献立をハッシュドビーフにしてもらい、もう暫く厄介になっても良いかなとも思ったのですが、丁度その日の昼にやっていたワイドショーでシシトウの炒めものの特集がやっていたので、シシトウを食べたいという気になっていた私は少し躊躇した後でシシトウの炒めものをお願いしました。
その日に食べたシシトウの炒めものはワイドショーで紹介されていたものとほぼ同じで、悪の組織の調理担当に思い切って「何故今日はシシトウの炒めものを作りたくなったのか」と聞いてみたところ、言葉を濁らせて適当にはぐらかされてしまいました。
間もなくして私は家まで見送りをしてもらい、無事帰宅したのですが、玄関前に立ったところで塩コショウの香りがしているのに気が付きました。
見送りをしてくれた悪の組織の人と顔を見合わせてフフと笑ったところでさよならを告げてお別れとなったのですが、そんな出来事があった世界線を過ごしてきたこともあってか、私もそれなりにシシトウを使った料理が好きです。
――さて、話を戻しましょう。
今回のお話はシシトウの辛味についてです。
品種にもよるとは思いますが、ごく一般的にシシトウとは唐辛子のような形をしていながら辛くなく、寧ろ甘さや独特な苦味の方が印象強い野菜です。
あまりシシトウを食べたことがない人にわかりやすく説明するのであれば、ピーマンを熱でしぼませたようなものでしょうか。
大きさも小ぶりで、水洗いさえすればヘタも取らずに火にかけるだけで簡単に美味しくいただけます。
ここでまた少し別の世界線でのお話に戻るのですが、これは私が悪の組織に人質として監禁された世界線とはまた違った世界線でのこと。
当時その国ではシシトウというものは悪魔の食べ物として恐れられ、一口食べたらたちまち命を落としてしまうものだと信じ込まれていました。
シシトウ農家は悪魔に魂を売った者として世間から爪弾き者にされ、道を歩けば石を投げられ、丹精込めて育てたシシトウを市場に売りに出そうものならば誰からも相手にされずに日々辛い思いをして生きていました。
生活の頼みの綱はシシトウと、親の代が残した使い切れないほどの遺産。
どうにかしてシシトウを世間の人に食べてもらおうと考え、お金を与えた上で色々な人にシシトウを食べてもらうように試みたのですが、お金を受け取るだけ受け取ってろくにシシトウも食べない人や、仮に食べたとしても世間の風当たりを気にしてその美味しさを周りに話せない人がほとんどでした。
遺産を切り崩してまでも食べてもらったというのに一向に状況は好転しません。
遂に痺れを切らしたシシトウ農家はたまたま近くを通りがかった人を家へと連れ込み、監禁し、そして無理矢理にでもシシトウを食べさせることにしました。
「ハッシュドビーフとシシトウの炒めもの、どちらか選べ」
私はそこで「ハッシュドビーフ」と答えたのですが、シシトウ農家の表情が徐々に強張っていくのを察し、どちらも食べられないか交渉しました。
シシトウ農家は少しばかり首をかしげましたが、暫く考えた素振りをした後で少しばかり笑顔を見せ、私のためにとっておきのハッシュドビーフとシシトウの炒めものをご馳走してくれました。
ハッシュドビーフが美味しかったのは当然ですが、その日に食べたシシトウの炒めものは格別の味がしました。
その旨をシシトウ農家に伝えると飛び跳ねるように喜び、「その美味しさを是非世間に広めてくれ」と一言添えられて私は家へと帰されました。
以降、私は世間の風当たりを気にしてシシトウの美味しさを広められていません。
当時の私は結局シシトウ農家のために何かできたわけでもなく、また別の世界線へと移動してしまいました。
後日、ワイドショーでシシトウレシピの紹介がされ、シシトウへの偏見が風化したのはまた別の話ですが、シシトウ農家はそのワイドショーで放送されたのが私のおかげだと勘違いしたことで、今も別の世界線の私にはお礼という形で1週間に1回、ポストの中に新鮮なシシトウが1つ投函されています。
シシトウが悪魔の食べ物ではないと食べ物と知られた時点でシシトウビジネスが広まったのは言うまでもありません。
私を監禁したシシトウ農家は元祖シシトウとしてオリジナルブランドを立ち上げて成功を遂げています。
しかしながらその一方で類似品も多く出回るようになり、見た目はシシトウでありながらも唐辛子のようにとても辛い偽物に騙される人も急激に増加しました。
シシトウは唐辛子のような形をしていながら甘く、独特な苦味で美味しくいただけるものだと思いこんで購入した人が苦情を唱えるようになり、私を監禁した元祖シシトウにも少なからず被害を受けたようです。
政府は偽物のシシトウが流通することに関して国民に注意喚起を促すようになりましたが、対応に入った時には既に手遅れで、一体どのシシトウに辛味のあるシシトウが混入しているのかわからなくなってしまうほど取り返しのつかない状況へと変わってしまいました。
遂には別の世界線に移動した私の元に投函されるシシトウの中にも事態が及ぶようになってしまったようで、結論から言えばシシトウ自体に辛味のあるものが混入する可能性を前提とした定義が掲げられたことで現在落ち着いたと言われています。
しかしここで大変になってくるのがその"ハズレ個体"を見分けるにはどうすればいいかというお話。
人によっては"当たり個体"と捉える方もいるかもしれませんが、今回のお話では辛味のあるシシトウは"ハズレ個体"として表記したいと思います。
結局のところ、シシトウはまとめて購入してしまった時点でその中にハズレが入っていれば運命を塗り替えることはできません。
そのハズレ個体だけ捨ててしまうのも別段悪い話ではないのですが、シシトウ農家が丹精込めて育てたシシトウを無下にするのもナンセンスでしょう。
一人で食べ切る場合は順番を決めたり、心の準備をしたい……。
複数人で食べ切る場合は他の人に押し付けたい……。
そんな悩みを抱える人のために、今回の記事ではそのシシトウが辛いものかどうか調べる方法を紹介したいと思います。
どうも、シシトウ農家です。
よろしくお願いします。
今回皆さんが悩みとして抱えている辛味のある個体についてなんですが、実はとあることをするだけで一発でわかっちゃいます。
ほう、それは何でしょうか?
答えは簡単。食べるだけ。
食べたら辛いとわかるので、人は学びを得ることができます。
はい?
前もって辛い個体を知ろうなんておこがましい。
分析機関にお願いして辛味成分のある個体を仕分けてもらう以外には方法はありません。
人は運命を受け入れるべきなのです。
そこに辛い個体があるのであればあると言えるし、なければないとも言える。
シシトウの辛味に強い人が気が付かなければそれは『ない』と同意義なのです。
やっぱりシシトウは悪魔の食べ物じゃないか!
場合によっては悪魔的に美味しいとも言えますね。
美味しくいただくのが一番重要なんですね。